感情がうまれるところ。(カヲアス)
カヲアスでのバレンタインSSを久しぶりに更新しました。
アスカ→加持さん
な、感じのカヲアス。
アスカ→加持さん
な、感じのカヲアス。
◆◆◆
新しい感情は知らない場所から突然やってくる。
アスカはバレンタインのチョコを加持に渡そうと、こっそりネルフ内にある自動販売機のすぐ横で待ち伏せていた。
サブバッグに忍ばせたチョコは数日前にヒカリと百貨店の地下街に特設に設けられたバレンタインフェアにて買ったものだった。
うきうきと喜ぶ加持の顔を思い浮かべ心躍らせる中、向こうから誰かがやってきた。
1番会いたくない人物と知るなりアスカはしかめっ面になる。
コーヒーを買いに通りかかったミサトに気づかれる前にいそいそと退散しようと回れ右をしたが、
アスカの手に持っていたチョコに視線を落とした。
「アスカ…それ加持にあげるの?なら残念だけど今ね加持は日本にいないのよ」
「えー、そんな…」
がっかりと肩を落とすアスカを横に、ミサトの持っている携帯の呼び出し音が割り込んできた。
「急ぎの用件か。ああ、もうっ、急いで行かなきゃ!アスカ…それ…いえ、いいわ。じゃ、ごめん、行くわね」
「…」
ほんとついてない。
加持さんはいないし…
ミサトになんかひどく同情の目を向けられたじゃない。
ああ…全く…ついてないなぁ・・・
そんな加持の不在を知りがっかりとした面持でふらりと腰をかける。
アスカがため息をついてベンチに座っているとそこへカヲルがやってきた。
遠慮もなく隣に腰をかける。
「…ちっ」
嫌な顔をカヲルに向けるが本人はお構いなしで。
「やあ、セカンド」
隠そうとしたその手元のサブバッグに目をつけるやいなや、中の箱に入ったものをカヲルは目ざとく見つけた。
くそ・・・とひとこと言葉を漏らす。
「…これはアンタにじゃないわよ」
機嫌の悪いどすをきかせた声で先に相手に釘をさした。
「へえ、誰にあげるの?加持さん?彼ならいないらしいよ」
眉毛をつりあげたアスカは食ってかなるように怒鳴り声をあげた。
「知ってるわよ!でもなんでアンタ知ってんのよ!!」
「昨日、日本を発つ前に彼に会ったからだよ」
身を乗り出しカヲルの首元を掴んだ。
「どうしてアンタだけ?」
アスカが掴んだ手を見るなりカヲルはその手首を掴み返した。
イタっ!アスカが声をあげる。
「別に彼とは偶然会っただけだよ。ああ、そっかキミは彼の事が好きだったよね」
わざとらしい笑顔を作りカヲルが言うと、凄い勢いでアスカが立ち上がった。
「ちっ…いちいちほんとにむかつく」
「キミは威勢がいいね」
加持へのチョコを入れた小さな鞄を掴み直すとここから早く立ち去ろうと、
カヲルの前から去ろうとした。
そんなアスカの動きを先読むように彼女の手首を容赦なく掴んだ。
「待ちなよ」
「なによ!離しなさいよ!それになんで用もないのにアンタを待たなきゃいけないのよ?!」
「言い方が悪かったよ。ごめん、つい…意地が悪い言い方をしたって思ってる」
「・・・ふん、アンタが謝るなんて雨でも降るわね」
雨でも降るんじゃないかといわれ、カヲルは苦笑を浮かべた。
「あのさ、実はたくさんチョコをもらってね。ボク1人じゃ食べきれないから良ければ食べるのを手伝ってくれないかな」
「はあ?何言ってんのよ」
「ここで会ったついでにボクの頼みを聞いてはくれないかな」
「アンタの頼みなんて聞く義理なんかないと思うけど」
いうか言わないかの間で「ぐうっ…」とお腹の虫が二人の間でないた。
恥ずかしくなりアスカは頬を一瞬にして赤くする。
「ほら、お腹も鳴ってるんだしお腹空いてない?」
「し、失礼ね!…お腹が鳴ったとしてもそれを聞いてないフリくらいしなさいよ!!」
「…フリか。次からはそうするよ」
「アンタはいちいち一言多いんだから!」
仕方なく…ではないが、チョコは嫌いじゃないしむしろ大好きだしそれに本当にお腹も少し空いていた。
だからと自分に言い訳をしながらだが、渋々カヲルの部屋まできてやった。
あいかわらず殺風景で冷たい雰囲気しか思い浮かばない無機質な部屋。
人が住んでいるのかさえ疑いたくなるほど。
綺麗に片ずけられているようでなにもない。
不思議なくらい生活感が感じられない・・・・・
思春期の男の子の部屋であるのに知っている男の子の部屋とかと大きく違う。
住んでいる気配がまったく感じない部屋に思える。
自分やシンジの物で溢れた部屋と比べたら大違い・・・
くるなりアスカはそう思った。
打ちっぱなしの壁の間に置かれた冷蔵庫。
その横に無造作に置かれたふたつの大きめの紙袋の色だけが部屋の中でやけに目立っていた。
アスカがその紙袋をまじまじと見ていたら思い出したような顔で、アスカの視界を横切る。
カヲルはその紙袋を持つとクルリと反転させばらまく。
ベッドの上にちらかるその色とりどりの大きさの箱に目が集中してしまう。
10?20?沢山の箱が出てきた。
無造作に置かれたその幾つかをアスカに手渡した。
「な、なによ?コレ?」
「さっきいってたチョコだよ?沢山今日もらったからさ。食べきれないし、あまり甘いものが好きじゃないし、どうしようかと思ってたんだよ」
自分が誰かからバレンタインでもらったものを食べないか?と、アスカにいってきた。
信じられない。
もらったからと食べない?と、言ってきたのはバレンタインで貰ったチョコだった。
…だけど、よくよく考えてみたらそうよね?
そういや今日はバレンタインだった。
だけどこの男…ほんと信じらんない。
このチョコをくれた女の子がどんな気持ちでコイツにこれをあげたのかを、全くわかってないのね。
アスカはため息をひとつつくと、目の端でチラ見しつつ少し惜しいなと感じながら渡された物を指先でツンとつき返した。
「チョコは好きだけど、これは無理食べれないわ」
「どうして?」
本当になんにも分かってないの?
こいつバカ?バカなの?!
「これをアンタにあげた子がどんな気持ちでいたかアンタ分かってる?アンタを好きだからあげたの」
「ふぅん、そうなの?ボクも好きだよ」
まったく悪びれない笑顔をこっちにむけると、チクリと何かと重なり胸が痛くなった。
ああ、同じように言われたことがある。
好きだよ。と…
幾度気持ちのこもった言葉が欲しいと思ったか。
聞けた言葉は同じ音でも、自分と同じ想いではない。
あの時、加持さんが自分に言ったものだ。
アスカが好きだよ。と。
それは自分が欲しい気持ちではないあれと同じ…あれと同じ重さが違う言葉だ。
嫌な気持ちが波のように押し寄せる。
「その気持ちのこもってない白々しい笑い見てるとほんと吐き気がする位ムカつくわ」
「なにか気に触った?」
なにもかもどうでもいい気にすらなる。
「人を本気で好きになんかなったことないくせに」
「成る程ね。そう思ってるんだ」
「思ってるならどうなのよ?」
「別に…」
「ふんっ、図星みたいね」
急にベッドからアスカが立ち上がると、カヲルは反射的に彼女の手首を掴んだ。
「なにすんのよバカっ!痛いじゃない。離しなさいよ!」
掴まれた手を払いのけようと勢い良く手首を引くが、逆に強く引き寄せられアスカは体のバランスを失い前のめりにベッドに倒れかけた。
「まだ話しが終わってないんだけどな」
カヲルが組み敷くように抑え込むと、アスカは足を曲げ反撃した。
「どきなさいよ!」
「嫌だって言ったらどうかな?」
「打ちのめすだけよっ!!」
「そんな泣きそうな顔して怖いこというよね」
カヲルは苦笑いを浮かべる。
「うそそんな訳…」
僅かなだが、目尻の濡れた感触に気がつく。
泣きそうになるなんて全く思わなかった。
泣いたり怒ったり…表情を変えるアスカにカヲルは興味を持った。
シンジの時のような興味深いなにかが胸の奥をつついてくる。
「君は本当に面白いね…」
「はあ?アンタ何言ってんのよ」
「好奇心…いや、好意かな?」
「アンタは手に負えないバカか何か?」
体重が移動しベッドのスプリングがギシリときしんだ。
アスカの手を離し横にずれて座ると、カヲルはいつもと違った笑いをみせた。
笑いながら目を手で覆う。
「はははっ…手に負えないバカか」
「頭のネジどうかしたんじゃない?」
何がおかしいのかしら?
不思議そうに眺めるアスカを見ると、また声を出して笑いだす。
「…はー、まいったよ。どうやらボクは君の事が好きらしい」
「…ねえ、それ笑う事?」
迷惑そうな顔をカヲルに向ける。
「アンタに好かれてるって思うと、ほんと気持ち悪いから考えなおして」
「はははっ…」
「アンタのいう好きって言葉には騙されないから!」
加持が日本に帰国したのはそれから1週間後だった。
「加持さんがいないとほんと日本って退屈!」
いつもは他人にはみせないすねた顔。
いつもなら出さない様な甘えた声色。
アスカは加持の背中に抱きつきながら頬をすり寄せ懐いてみた。
「バレンタインに誰かにチョコとか上げたとか、お付き合いしてるとかそういう報告はないのか?」
「いっ、いるわけないじゃない!」
ふと、カヲルが言った言葉が頭を過ぎった。
なんでアイツの言葉を思い出したのか・・・
「もー、アタシは加持さん一筋だって何度言ったらわかってくれるのーー…」
アスカは頬を軽く膨らませいつものように加持の前で拗ねたフリをしてみた。
ああ、いつになったら本気だと思ってもらえるんだろうか?
軽く頭をそのフレーズが過る。
「アスカ…いつかはこんなおじさんなんか気にも止めなくなるぞ!」
愛想笑いをする加持。
それに何度この言葉でかわされただろうか。
「…もう!すぐそうやってはぐらかすんだから!!」
押しても引いても何度やっても、返る言葉は決まっている。
年の差…
と、いう呪いのような言葉だ。
だが、本当は知っている。
それはていのいい言い訳で、誰を愛しているのか。
「ね、ミサト…とはもう会ったの?」
アスカの声色が変わる。
意表を突かれた顔を加持が一瞬したかのようにみえた。
「葛城とはそうだな。出張の報告をしにあとで顔を出すとかは…」
加持の薄水色のシャツの襟をギュッと自分へと引っ張る。
そのままアスカは軽く唇を寄せた。
「おいおい、どうした」
加持のにおいと、唇に残ったたばこの苦い香り。
動じることもなく、加持は優しくアスカに聞いた。
動じることなく。
それが何を意味しているか、痛いほど良く分かった。
「あいさつ、よ。ほらアタシ外国の血が混ざってるじゃない」
「ああ、アスカは確かドイツ人が混じっていたよな」
「そう。お帰りなさいってあいさつよ」
「そうか、お帰りなさいってことか」
加持を見上げるアスカの声は少しだけうわずったが、それを気にする様子もなく加持はアスカの頭を大きな手で優しくなぜた。
自動販売機の前のベンチに腰をかけため息をつくと、後ろ自販機で何かを買う音がした。
「ミルクコーヒーはどうだい?」
ミルクコーヒー微糖をアスカの手の間に置くと、
カヲルはのんびりとした動きでアスカの隣に立った。
「ちっ、またアンタか」
カヲルはそんな無下な言葉なんて気にもせずベンチに腰をかけると、自分の分のブラックコーヒーのプルトップをカチっと鳴らし開けた。
「君とはよくここで会うね」
「わざわざ何か言いにきたの?気の毒に振られたんだね。とか、何だの嫌味でもいいにきた?」
「…振られたんだ」
「ちっ…」
アスカもミルクコーヒーのプルトップを指で開けた。
無言で暫く2人は缶コーヒーを飲みながら通り過ぎる職員を眺めた。
「甘いわねこれ。で、アンタあれからちょっとどうなの?」
「なにが?」
「チョコ貰ってあんな態度とった件は改めたかって聞いてんの」
「あ、それか。…まあ、言われてから考えたよ。とりあえずは好きな人がいるんだ、ごめんね。と、貰った人には言おうと…ね」
「ふーん、そう…」
甘ったるいミルクコーヒーの最後の一口を飲み干すと、アスカは立ち上がってカヲルを見下ろした。
目に少しかかる長い銀髪を眺め下すと髪の間から赤い瞳が覗き見えた。
「ふん、好きな人ね…まあ断りたいならそれでもいいんじゃない?謝罪は大事だから」
カヲルが言葉のする方を見上げると缶を赤いトラッシュに捨て立ち去るところだった。
「ところでアスカは加持さんを諦めたのかい?」
アスカはカヲルに振り返ると、何故いちいち加持を諦めたかどうだかを説明しなきゃならないか疑問に思った。
「アンタに報告する義務なんてこれっぽっちもないからノーコメントよ!」
「諦めたら、まあいいからボクに教えてよ」
「バカじゃない?諦めたとか言う訳ないでしょ?」
「気は長い方だから待つよ」
「はあ?…面白くもないのにアンタもヒマ人ね」
どういうことなのかアスカにわかるのはこれよりまだ先の話だった。
終わり。
と、未来的にカヲアスを予感させるバレンタインなネタになりました。
新しい感情は知らない場所から突然やってくる。
アスカはバレンタインのチョコを加持に渡そうと、こっそりネルフ内にある自動販売機のすぐ横で待ち伏せていた。
サブバッグに忍ばせたチョコは数日前にヒカリと百貨店の地下街に特設に設けられたバレンタインフェアにて買ったものだった。
うきうきと喜ぶ加持の顔を思い浮かべ心躍らせる中、向こうから誰かがやってきた。
1番会いたくない人物と知るなりアスカはしかめっ面になる。
コーヒーを買いに通りかかったミサトに気づかれる前にいそいそと退散しようと回れ右をしたが、
アスカの手に持っていたチョコに視線を落とした。
「アスカ…それ加持にあげるの?なら残念だけど今ね加持は日本にいないのよ」
「えー、そんな…」
がっかりと肩を落とすアスカを横に、ミサトの持っている携帯の呼び出し音が割り込んできた。
「急ぎの用件か。ああ、もうっ、急いで行かなきゃ!アスカ…それ…いえ、いいわ。じゃ、ごめん、行くわね」
「…」
ほんとついてない。
加持さんはいないし…
ミサトになんかひどく同情の目を向けられたじゃない。
ああ…全く…ついてないなぁ・・・
そんな加持の不在を知りがっかりとした面持でふらりと腰をかける。
アスカがため息をついてベンチに座っているとそこへカヲルがやってきた。
遠慮もなく隣に腰をかける。
「…ちっ」
嫌な顔をカヲルに向けるが本人はお構いなしで。
「やあ、セカンド」
隠そうとしたその手元のサブバッグに目をつけるやいなや、中の箱に入ったものをカヲルは目ざとく見つけた。
くそ・・・とひとこと言葉を漏らす。
「…これはアンタにじゃないわよ」
機嫌の悪いどすをきかせた声で先に相手に釘をさした。
「へえ、誰にあげるの?加持さん?彼ならいないらしいよ」
眉毛をつりあげたアスカは食ってかなるように怒鳴り声をあげた。
「知ってるわよ!でもなんでアンタ知ってんのよ!!」
「昨日、日本を発つ前に彼に会ったからだよ」
身を乗り出しカヲルの首元を掴んだ。
「どうしてアンタだけ?」
アスカが掴んだ手を見るなりカヲルはその手首を掴み返した。
イタっ!アスカが声をあげる。
「別に彼とは偶然会っただけだよ。ああ、そっかキミは彼の事が好きだったよね」
わざとらしい笑顔を作りカヲルが言うと、凄い勢いでアスカが立ち上がった。
「ちっ…いちいちほんとにむかつく」
「キミは威勢がいいね」
加持へのチョコを入れた小さな鞄を掴み直すとここから早く立ち去ろうと、
カヲルの前から去ろうとした。
そんなアスカの動きを先読むように彼女の手首を容赦なく掴んだ。
「待ちなよ」
「なによ!離しなさいよ!それになんで用もないのにアンタを待たなきゃいけないのよ?!」
「言い方が悪かったよ。ごめん、つい…意地が悪い言い方をしたって思ってる」
「・・・ふん、アンタが謝るなんて雨でも降るわね」
雨でも降るんじゃないかといわれ、カヲルは苦笑を浮かべた。
「あのさ、実はたくさんチョコをもらってね。ボク1人じゃ食べきれないから良ければ食べるのを手伝ってくれないかな」
「はあ?何言ってんのよ」
「ここで会ったついでにボクの頼みを聞いてはくれないかな」
「アンタの頼みなんて聞く義理なんかないと思うけど」
いうか言わないかの間で「ぐうっ…」とお腹の虫が二人の間でないた。
恥ずかしくなりアスカは頬を一瞬にして赤くする。
「ほら、お腹も鳴ってるんだしお腹空いてない?」
「し、失礼ね!…お腹が鳴ったとしてもそれを聞いてないフリくらいしなさいよ!!」
「…フリか。次からはそうするよ」
「アンタはいちいち一言多いんだから!」
仕方なく…ではないが、チョコは嫌いじゃないしむしろ大好きだしそれに本当にお腹も少し空いていた。
だからと自分に言い訳をしながらだが、渋々カヲルの部屋まできてやった。
あいかわらず殺風景で冷たい雰囲気しか思い浮かばない無機質な部屋。
人が住んでいるのかさえ疑いたくなるほど。
綺麗に片ずけられているようでなにもない。
不思議なくらい生活感が感じられない・・・・・
思春期の男の子の部屋であるのに知っている男の子の部屋とかと大きく違う。
住んでいる気配がまったく感じない部屋に思える。
自分やシンジの物で溢れた部屋と比べたら大違い・・・
くるなりアスカはそう思った。
打ちっぱなしの壁の間に置かれた冷蔵庫。
その横に無造作に置かれたふたつの大きめの紙袋の色だけが部屋の中でやけに目立っていた。
アスカがその紙袋をまじまじと見ていたら思い出したような顔で、アスカの視界を横切る。
カヲルはその紙袋を持つとクルリと反転させばらまく。
ベッドの上にちらかるその色とりどりの大きさの箱に目が集中してしまう。
10?20?沢山の箱が出てきた。
無造作に置かれたその幾つかをアスカに手渡した。
「な、なによ?コレ?」
「さっきいってたチョコだよ?沢山今日もらったからさ。食べきれないし、あまり甘いものが好きじゃないし、どうしようかと思ってたんだよ」
自分が誰かからバレンタインでもらったものを食べないか?と、アスカにいってきた。
信じられない。
もらったからと食べない?と、言ってきたのはバレンタインで貰ったチョコだった。
…だけど、よくよく考えてみたらそうよね?
そういや今日はバレンタインだった。
だけどこの男…ほんと信じらんない。
このチョコをくれた女の子がどんな気持ちでコイツにこれをあげたのかを、全くわかってないのね。
アスカはため息をひとつつくと、目の端でチラ見しつつ少し惜しいなと感じながら渡された物を指先でツンとつき返した。
「チョコは好きだけど、これは無理食べれないわ」
「どうして?」
本当になんにも分かってないの?
こいつバカ?バカなの?!
「これをアンタにあげた子がどんな気持ちでいたかアンタ分かってる?アンタを好きだからあげたの」
「ふぅん、そうなの?ボクも好きだよ」
まったく悪びれない笑顔をこっちにむけると、チクリと何かと重なり胸が痛くなった。
ああ、同じように言われたことがある。
好きだよ。と…
幾度気持ちのこもった言葉が欲しいと思ったか。
聞けた言葉は同じ音でも、自分と同じ想いではない。
あの時、加持さんが自分に言ったものだ。
アスカが好きだよ。と。
それは自分が欲しい気持ちではないあれと同じ…あれと同じ重さが違う言葉だ。
嫌な気持ちが波のように押し寄せる。
「その気持ちのこもってない白々しい笑い見てるとほんと吐き気がする位ムカつくわ」
「なにか気に触った?」
なにもかもどうでもいい気にすらなる。
「人を本気で好きになんかなったことないくせに」
「成る程ね。そう思ってるんだ」
「思ってるならどうなのよ?」
「別に…」
「ふんっ、図星みたいね」
急にベッドからアスカが立ち上がると、カヲルは反射的に彼女の手首を掴んだ。
「なにすんのよバカっ!痛いじゃない。離しなさいよ!」
掴まれた手を払いのけようと勢い良く手首を引くが、逆に強く引き寄せられアスカは体のバランスを失い前のめりにベッドに倒れかけた。
「まだ話しが終わってないんだけどな」
カヲルが組み敷くように抑え込むと、アスカは足を曲げ反撃した。
「どきなさいよ!」
「嫌だって言ったらどうかな?」
「打ちのめすだけよっ!!」
「そんな泣きそうな顔して怖いこというよね」
カヲルは苦笑いを浮かべる。
「うそそんな訳…」
僅かなだが、目尻の濡れた感触に気がつく。
泣きそうになるなんて全く思わなかった。
泣いたり怒ったり…表情を変えるアスカにカヲルは興味を持った。
シンジの時のような興味深いなにかが胸の奥をつついてくる。
「君は本当に面白いね…」
「はあ?アンタ何言ってんのよ」
「好奇心…いや、好意かな?」
「アンタは手に負えないバカか何か?」
体重が移動しベッドのスプリングがギシリときしんだ。
アスカの手を離し横にずれて座ると、カヲルはいつもと違った笑いをみせた。
笑いながら目を手で覆う。
「はははっ…手に負えないバカか」
「頭のネジどうかしたんじゃない?」
何がおかしいのかしら?
不思議そうに眺めるアスカを見ると、また声を出して笑いだす。
「…はー、まいったよ。どうやらボクは君の事が好きらしい」
「…ねえ、それ笑う事?」
迷惑そうな顔をカヲルに向ける。
「アンタに好かれてるって思うと、ほんと気持ち悪いから考えなおして」
「はははっ…」
「アンタのいう好きって言葉には騙されないから!」
加持が日本に帰国したのはそれから1週間後だった。
「加持さんがいないとほんと日本って退屈!」
いつもは他人にはみせないすねた顔。
いつもなら出さない様な甘えた声色。
アスカは加持の背中に抱きつきながら頬をすり寄せ懐いてみた。
「バレンタインに誰かにチョコとか上げたとか、お付き合いしてるとかそういう報告はないのか?」
「いっ、いるわけないじゃない!」
ふと、カヲルが言った言葉が頭を過ぎった。
なんでアイツの言葉を思い出したのか・・・
「もー、アタシは加持さん一筋だって何度言ったらわかってくれるのーー…」
アスカは頬を軽く膨らませいつものように加持の前で拗ねたフリをしてみた。
ああ、いつになったら本気だと思ってもらえるんだろうか?
軽く頭をそのフレーズが過る。
「アスカ…いつかはこんなおじさんなんか気にも止めなくなるぞ!」
愛想笑いをする加持。
それに何度この言葉でかわされただろうか。
「…もう!すぐそうやってはぐらかすんだから!!」
押しても引いても何度やっても、返る言葉は決まっている。
年の差…
と、いう呪いのような言葉だ。
だが、本当は知っている。
それはていのいい言い訳で、誰を愛しているのか。
「ね、ミサト…とはもう会ったの?」
アスカの声色が変わる。
意表を突かれた顔を加持が一瞬したかのようにみえた。
「葛城とはそうだな。出張の報告をしにあとで顔を出すとかは…」
加持の薄水色のシャツの襟をギュッと自分へと引っ張る。
そのままアスカは軽く唇を寄せた。
「おいおい、どうした」
加持のにおいと、唇に残ったたばこの苦い香り。
動じることもなく、加持は優しくアスカに聞いた。
動じることなく。
それが何を意味しているか、痛いほど良く分かった。
「あいさつ、よ。ほらアタシ外国の血が混ざってるじゃない」
「ああ、アスカは確かドイツ人が混じっていたよな」
「そう。お帰りなさいってあいさつよ」
「そうか、お帰りなさいってことか」
加持を見上げるアスカの声は少しだけうわずったが、それを気にする様子もなく加持はアスカの頭を大きな手で優しくなぜた。
自動販売機の前のベンチに腰をかけため息をつくと、後ろ自販機で何かを買う音がした。
「ミルクコーヒーはどうだい?」
ミルクコーヒー微糖をアスカの手の間に置くと、
カヲルはのんびりとした動きでアスカの隣に立った。
「ちっ、またアンタか」
カヲルはそんな無下な言葉なんて気にもせずベンチに腰をかけると、自分の分のブラックコーヒーのプルトップをカチっと鳴らし開けた。
「君とはよくここで会うね」
「わざわざ何か言いにきたの?気の毒に振られたんだね。とか、何だの嫌味でもいいにきた?」
「…振られたんだ」
「ちっ…」
アスカもミルクコーヒーのプルトップを指で開けた。
無言で暫く2人は缶コーヒーを飲みながら通り過ぎる職員を眺めた。
「甘いわねこれ。で、アンタあれからちょっとどうなの?」
「なにが?」
「チョコ貰ってあんな態度とった件は改めたかって聞いてんの」
「あ、それか。…まあ、言われてから考えたよ。とりあえずは好きな人がいるんだ、ごめんね。と、貰った人には言おうと…ね」
「ふーん、そう…」
甘ったるいミルクコーヒーの最後の一口を飲み干すと、アスカは立ち上がってカヲルを見下ろした。
目に少しかかる長い銀髪を眺め下すと髪の間から赤い瞳が覗き見えた。
「ふん、好きな人ね…まあ断りたいならそれでもいいんじゃない?謝罪は大事だから」
カヲルが言葉のする方を見上げると缶を赤いトラッシュに捨て立ち去るところだった。
「ところでアスカは加持さんを諦めたのかい?」
アスカはカヲルに振り返ると、何故いちいち加持を諦めたかどうだかを説明しなきゃならないか疑問に思った。
「アンタに報告する義務なんてこれっぽっちもないからノーコメントよ!」
「諦めたら、まあいいからボクに教えてよ」
「バカじゃない?諦めたとか言う訳ないでしょ?」
「気は長い方だから待つよ」
「はあ?…面白くもないのにアンタもヒマ人ね」
どういうことなのかアスカにわかるのはこれよりまだ先の話だった。
終わり。
と、未来的にカヲアスを予感させるバレンタインなネタになりました。
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