ネルフのお仕事(番外編):竜神 貢
相方の貢さんに、ネルフのお仕事の番外編小説をお誕生日に書いてもらったので公開できる部分をwww
※
成人向け描写以外を載せてますwww
ネルフのお仕事(番外編):竜神 貢
「ありがとうございましたー」
満席だった店内から会社員の姿がほとんど消え、店員はテーブルの片付けに追われている昼下がり。店の一番奥のテーブルで、赤みがかった金髪が揺れた。
「だからさぁ、いいじゃん?ちょっとお茶するだけだって」
「いえ、困りますから」
一番奥のテーブルに座った二人連れの若い男性客が、後片付けに追われる店員をしつこく誘っている。店員は男性客をほぼ無視しつつ、コーヒーカップ、グラスをトレイに乗せ、ダスターで丁寧にテーブルを拭きあげている。
「オマエさ、ネルフの関係者なんだろ?オレ達に逆らえる立場じゃないんじゃねーの?」
「そりゃそうだ。ネルフのせいで、オレ達は絶滅しかけたんだからな」
ダスターでテーブルを拭く手が止まった。隣のテーブルに座っている女性客がそれを聞いて、睨みつけてくる。その視線の意味は、痛いほど知っている。
「世界を滅ぼしかけた、最悪の組織ネルフってね。三年前はオレたちも大変だったし、あの悲惨な現場を忘れちゃいないんだ。最悪のニアサードインパクトもそうだけど、その前から散々、街を破壊したりなんだりしてくれちゃって、その責任とってくれたっていんじゃねーの?…うわ!なにすんだ、このアマ!」
男性客は台詞が終わらないうちに頭から水をかけられて立ち上がった。
「…なんなのよ?」
仁王立ちになっている少女はよく見ると、金髪と身体が小刻みに震えているのがわかる。店員を睨みつけていた女性客すら唖然として少女を見上げていた。
「なんにも知らないくせに、なんなのよ?偉そうに能書きたれてんじゃないわよ!」
あまりの怒りに声が震えるのを必死に抑える。店内の店員と客全員が少女を見ていた。裏方として働いているコックでさえ、店頭に繰り出してきた。怒鳴り声に気づいて恰幅のいい店長が走り寄って、頭を下げた。必死に両手をこねくり回しながら、不自然なほどの笑顔を浮かべる。
「申し訳ございません!お代は結構ですんで!コラ、オマエも頭を下げるんだ!」
「イヤです」
「下げるんだよ!式波!」
店長の大きな手がアスカの後頭部を掴み頭を下げさせようとして伸びたのを見て、アスカはひらりと身をかわした。そのまま、店の奥へと勝手に走り戻る。店長は目を血走らせて、大量の汗を流しながら再度頭を下げた。
「オイ、式波って、エヴァパイロットだったヤツじゃないのか?そんな危険人物使ってんのか?この店は?」
それから数分間、男性客の怒号と、悲鳴に近い店長の謝罪の声が 店内に響き渡り、ようやく騒ぎが収まった後、今度はバックヤードで怒号が飛び交うこととなった。
「式波、お客様に水をかけるなんてもってのほかだ!オマエ、何を考えてるんだ?」
「…あのオトコが悪いんです」
アスカは口をへの字に結び、店長を睨みつけた。店長の血圧がまた一気に上がりだし、色白な顔が真っ赤に変わっていく。
「なんだって?高学歴だというから安心していたのに、とんだ世間知らずだ!どうやって育ったのか、親の顔が見たいわ!」
アスカの表情が真っ青になった瞬間だった。
ガシャーン!
キッチンでけたたましい音がした。
「あー…、スイマセン。手が滑ったみたいで」
「て、店長!渚のヤツ、ウチの店で一番高い皿を全部割りました!」
「クビだ!ネルフはろくなヤツがいない!式波も渚も、クビだ!」
カヲルの爽やかな笑顔に、店長の血圧が最高値を記録したことは言うまでもない。その日店は午後二時にして閉店を余儀なくされた。
昼下がりのショッピングモールを、カヲルとアスカは並んで歩いていた。先ほどまで働いていたレストランは、もう遥か後ろになり、レンガ敷きのアーケードの中を宛てもなく歩く。カヲルがあまりにもノンビリ歩くので、アスカは何度も立ち止まらなければならなかった。
「あーあ。二人してクビになっちゃって。ミサトになんていうのよ、もう!」
「ま、クビになったって言うさ。取り繕いようもないからね」
涼しい顔をして隣を歩くカヲルを、アスカは呆れた表情で見つめた。
「ミサトは案外厳しいのよ?アンタ、知らないんでしょうけど」
「まぁ、絞られるのは仕方ないかな。仕事をしなけりゃ、シンジくんのサルベージの日が遠くなるだけなんだから」
「じゃあなんでわざと皿、割ったのよ?」
おや、といった表情でカヲルはアスカの顔を見た。
「気づいてたんだ。わざとだって」
「失礼ね。そんな鈍くないのよ?わたし」
「…さぁ?なんとなく、かな?」
ヘタな逃げ方だ、とアスカは思った。かといって、私がママのことを悪く言われて可哀想だからなんて言葉は聴きたくないから、適当に誤魔化してくれて助かったかもしれない。
天然なトコはあるけれど、案外悪いヤツじゃないのかもしれない。
いろんなことを急いでやらなきゃって思っていたけれど、そんなに急ぐことはないのかもしれない。
アスカはふっと微笑むと両手を後ろに組み、カヲルの歩調に合わせてゆっくりと歩いた。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
足が、もつれてなかな前に進めない。身体中、あらゆる箇所が痛いのも、なかなか前に進めない原因だ。金髪が乱れて顔にかかる。ブラウスのボタンがとび、前がはだけてくる。あと数メートル進むことができたら、この路地を抜けて明るい場所に出る。また一歩、左足を踏み出した瞬間、ぐい、と髪を引っ張られ一メートルほど後ろに引き戻された。
「オイオイ、まだ逃げられると思ってんの?」
「…くっ」
叫べばいいのかもしれない。だが声が出なかった。力を振り絞って後ろに蹴りを繰り出すが、蹴りは空振り、アスカは髪を引っ張られたまま地面に倒された。暗闇の中、冷たいコンクリートは絶望を連想させた。
「てこずらせやがって」
「ハハ、さすがエヴァパイロットってか?」
抵抗しようにも、もう身体が動かなかった。男に馬乗りされ、もう一人に手首を押さえつけられる。ボタンがとんで、下着がむき出しになっているブラウスをさらに破かれ、スカートを捲りあげられた。せめてもの抵抗で足を必死に閉じるくらいしか、できることはなかった。
そもそもどうしてこんなことになったのか。それを説明するにはおよそ二十分前に遡る。
二十分前、アスカは居酒屋でのアルバイトを終えて自宅へと向かって帰路を急いでいた。と、突然路地に引き擦り込まれた。いきなり後ろから羽交い絞めにされ、乳房を掴まれ、思い切りエルボーをかました。しかし、相手は二人。アスカは必死に暴れて逃亡を試みたが、あまりにも暴れるので幾度も殴られ、身体中痣だらけになった。アスカの凄まじい反撃で男達は倍以上の手傷を負っており、意地でもアスカを逃がさない構えだ。先日、レストランでアスカに水をかけられた男性客二人が待ち伏せしていたのだと、アスカが気づいたのはしばらくたってからだった。
馬乗りになった男の手が、アスカの乳房を掴んだ。男がズボンを脱ごうとしているのが見え、胸が悪くなる。足を精一杯バタつかせ、歯を食いしばってせめてもの抵抗をしてみるが、殆ど効果がない。こんな路地裏で名前も知らないゲスな男達に犯されるのかと思うと悔しくて仕方がない。こんな結末を迎えるために必死で勉強してきたのではない。必死でエヴァに乗って戦ってきたんじゃない。
手首を押さえつけている男が首筋を舐めようと顔を近づけてきて、アスカは精一杯顔を背けて身体を硬くした。と、男の頭がいきなり視界から消えた。暗がりに突然現われた人間が、容赦なく男の頭を蹴りつけて、ふっ飛ばしたのだ。男は二メートルほど吹っ飛び、そのまま気絶した。
「だれだ!」
アスカの上の男が、謎の人物に掴みかかろうと、立ち上がろうとして失敗した。
途中までズボンを下げていたのが災いし、つんのめるように転ぶ。
すかさずアスカは渾身の力を振り絞って男の股間を蹴り上げた。
「ぎゃ!」
悲鳴と同時に男はむき出しの股間を抱えて転げまわった。アスカの身体はふわりと持ち上げられ、あっという間に繁華街へと逃げおおせた。明るいところで見上げて、初めてそれがカヲルだと気づき、アスカは大きく安堵の息を吐いた。そしてそのまま、疲れから眠りの中へと落ちていった。
アスカが目覚めるとそこは知らない場所だった。知らない天井、知らないベッド。勢いよく起き上がろうとして、身体中の痛みを思い出す。
「あれ。もう起きたんだ」
何事もなかったかのように、カヲルが近づいてきた。アスカは毛布を引っ張りあげながら、横目でカヲルを見た。
「…ちょっと。ここアンタの家なの?」
「そうだよ?だって、キミ、寝ちゃったから。セカンドの家知らないし」
「…ま、仕方ないわね」
アスカはそのまま黙り込んだ。格好悪いところを見られたが、お礼は言うべきだ、とまずは考える。
「その…ありがとう。助けてくれて」
「別に。通りすがりにゴミを蹴っただけだよ」
「……」
コイツの天然なところに救われるなんて。アスカはほうっと息を吐き出した。そんなアスカの気持ちを知ってか知らずか、カヲルはダイニングの椅子に腰掛けたまま、風呂場を指差した。
「落ち着いたらシャワー使うといいよ」
言われて初めて、自分が泥だらけで、アザだらけなことに気づいた。髪の毛ももつれ、唇の端が切れている。
「使わせてもらうわ」
すぐにでもシャワーを浴びたい欲求に駆られて、アスカはベッドから飛び出た。
熱めに設定したシャワーを浴びて、石鹸で身体を洗うほどに、自分がどれだけ危険な状態だったのか気づいた。石鹸の泡が沁みる擦り傷がたくさんあった。髪の毛が汚れて絡み合ってなかなか取れない。キレイになるようゴシゴシ洗いたいのに、傷だらけで思うように洗えなかった。覚えている限り触られた場所を神経質に洗っている自分に気づき、アスカは悲しくなった。
エヴァで戦っているときとは違う痛みと恐怖が身体に刻まれている。どうしようもないほどの恐怖と悔しさに見舞われ、アスカは唇をかみ締めて自分自身を抱きしめた。
こんなの、私じゃない…。
アスカは意を決すると、濡れた身体のまま風呂場から出た。カヲルがキョトンとした表情で出迎える。
「?タオル、なかった?」
アスカはカヲルを頭のてっぺんからつま先まで、じっくりと検分した。整った顔立ちは同世代の男の中でも群を抜いて美しい。性格には問題ありだが、この際そこはどうでもよかった。
「フィフス、お願いがあるの」
「なんだい?」
「その、…わたしと、セックスしてほしいの」
このセリフには、流石のカヲルも驚きを禁じえなかった。
「ふーん?わからないな…セックスっていうのは男女の愛情の確認を含めた生殖作業だと認識していたんだけど…ボクたちは愛し合っているわけじゃないし」
「そんなの関係ないのよ。…わかっているでしょ?わたし、レイプされそうになったのよ?はじめてを、ぜんぜん知らない不細工な男としました、ってのだけは絶対イヤなの。アンタなら、まぁ、顔はイケてるからギリギリ及第点だわ」
「うーん…」
カヲルは天井を見上げ、顎に指をかけ、少し考えている様子だった。
「まぁ、生殖作業に興味がないわけじゃないからいいけど」
「アンタ…本当に性格に難アリね。ま、いいわ。早くしましょ」
アスカはベッドに潜り込んだ。アスカが風呂に入っている間に、シーツと毛布が変えられている。自分の家と違う洗剤の匂いを嗅ぎながら、全裸のまま待っていると、カヲルが近寄ってきた。
「ちょっと、電気消してよ。もう、ムードとかホントそういうセンスないのよね」
少し面食らったような顔でカヲルは部屋の照明を落とした。シャツを脱いで、ゆっくりとベッドに腰掛ける。
「…優しくしてよね」
「…仰せのままに」
カヲルがそっと毛布をはだけ、細くて白い指を伸ばしてアスカに触れた。アスカは目をぎゅっと瞑り、身体を硬くしている。ほんの少しだけ、震えているのがわかった。この脅えた小動物のような反応に、自分の中の何かが掻き立てられる気がしてカヲルは少なからず驚いた。この人間のような反応はどういうことなのか。使徒である自分にとって、生殖行為は人間の真似事にすぎないというのに。
つづく。
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ネルフのお仕事(番外編):竜神 貢
「ありがとうございましたー」
満席だった店内から会社員の姿がほとんど消え、店員はテーブルの片付けに追われている昼下がり。店の一番奥のテーブルで、赤みがかった金髪が揺れた。
「だからさぁ、いいじゃん?ちょっとお茶するだけだって」
「いえ、困りますから」
一番奥のテーブルに座った二人連れの若い男性客が、後片付けに追われる店員をしつこく誘っている。店員は男性客をほぼ無視しつつ、コーヒーカップ、グラスをトレイに乗せ、ダスターで丁寧にテーブルを拭きあげている。
「オマエさ、ネルフの関係者なんだろ?オレ達に逆らえる立場じゃないんじゃねーの?」
「そりゃそうだ。ネルフのせいで、オレ達は絶滅しかけたんだからな」
ダスターでテーブルを拭く手が止まった。隣のテーブルに座っている女性客がそれを聞いて、睨みつけてくる。その視線の意味は、痛いほど知っている。
「世界を滅ぼしかけた、最悪の組織ネルフってね。三年前はオレたちも大変だったし、あの悲惨な現場を忘れちゃいないんだ。最悪のニアサードインパクトもそうだけど、その前から散々、街を破壊したりなんだりしてくれちゃって、その責任とってくれたっていんじゃねーの?…うわ!なにすんだ、このアマ!」
男性客は台詞が終わらないうちに頭から水をかけられて立ち上がった。
「…なんなのよ?」
仁王立ちになっている少女はよく見ると、金髪と身体が小刻みに震えているのがわかる。店員を睨みつけていた女性客すら唖然として少女を見上げていた。
「なんにも知らないくせに、なんなのよ?偉そうに能書きたれてんじゃないわよ!」
あまりの怒りに声が震えるのを必死に抑える。店内の店員と客全員が少女を見ていた。裏方として働いているコックでさえ、店頭に繰り出してきた。怒鳴り声に気づいて恰幅のいい店長が走り寄って、頭を下げた。必死に両手をこねくり回しながら、不自然なほどの笑顔を浮かべる。
「申し訳ございません!お代は結構ですんで!コラ、オマエも頭を下げるんだ!」
「イヤです」
「下げるんだよ!式波!」
店長の大きな手がアスカの後頭部を掴み頭を下げさせようとして伸びたのを見て、アスカはひらりと身をかわした。そのまま、店の奥へと勝手に走り戻る。店長は目を血走らせて、大量の汗を流しながら再度頭を下げた。
「オイ、式波って、エヴァパイロットだったヤツじゃないのか?そんな危険人物使ってんのか?この店は?」
それから数分間、男性客の怒号と、悲鳴に近い店長の謝罪の声が 店内に響き渡り、ようやく騒ぎが収まった後、今度はバックヤードで怒号が飛び交うこととなった。
「式波、お客様に水をかけるなんてもってのほかだ!オマエ、何を考えてるんだ?」
「…あのオトコが悪いんです」
アスカは口をへの字に結び、店長を睨みつけた。店長の血圧がまた一気に上がりだし、色白な顔が真っ赤に変わっていく。
「なんだって?高学歴だというから安心していたのに、とんだ世間知らずだ!どうやって育ったのか、親の顔が見たいわ!」
アスカの表情が真っ青になった瞬間だった。
ガシャーン!
キッチンでけたたましい音がした。
「あー…、スイマセン。手が滑ったみたいで」
「て、店長!渚のヤツ、ウチの店で一番高い皿を全部割りました!」
「クビだ!ネルフはろくなヤツがいない!式波も渚も、クビだ!」
カヲルの爽やかな笑顔に、店長の血圧が最高値を記録したことは言うまでもない。その日店は午後二時にして閉店を余儀なくされた。
昼下がりのショッピングモールを、カヲルとアスカは並んで歩いていた。先ほどまで働いていたレストランは、もう遥か後ろになり、レンガ敷きのアーケードの中を宛てもなく歩く。カヲルがあまりにもノンビリ歩くので、アスカは何度も立ち止まらなければならなかった。
「あーあ。二人してクビになっちゃって。ミサトになんていうのよ、もう!」
「ま、クビになったって言うさ。取り繕いようもないからね」
涼しい顔をして隣を歩くカヲルを、アスカは呆れた表情で見つめた。
「ミサトは案外厳しいのよ?アンタ、知らないんでしょうけど」
「まぁ、絞られるのは仕方ないかな。仕事をしなけりゃ、シンジくんのサルベージの日が遠くなるだけなんだから」
「じゃあなんでわざと皿、割ったのよ?」
おや、といった表情でカヲルはアスカの顔を見た。
「気づいてたんだ。わざとだって」
「失礼ね。そんな鈍くないのよ?わたし」
「…さぁ?なんとなく、かな?」
ヘタな逃げ方だ、とアスカは思った。かといって、私がママのことを悪く言われて可哀想だからなんて言葉は聴きたくないから、適当に誤魔化してくれて助かったかもしれない。
天然なトコはあるけれど、案外悪いヤツじゃないのかもしれない。
いろんなことを急いでやらなきゃって思っていたけれど、そんなに急ぐことはないのかもしれない。
アスカはふっと微笑むと両手を後ろに組み、カヲルの歩調に合わせてゆっくりと歩いた。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
足が、もつれてなかな前に進めない。身体中、あらゆる箇所が痛いのも、なかなか前に進めない原因だ。金髪が乱れて顔にかかる。ブラウスのボタンがとび、前がはだけてくる。あと数メートル進むことができたら、この路地を抜けて明るい場所に出る。また一歩、左足を踏み出した瞬間、ぐい、と髪を引っ張られ一メートルほど後ろに引き戻された。
「オイオイ、まだ逃げられると思ってんの?」
「…くっ」
叫べばいいのかもしれない。だが声が出なかった。力を振り絞って後ろに蹴りを繰り出すが、蹴りは空振り、アスカは髪を引っ張られたまま地面に倒された。暗闇の中、冷たいコンクリートは絶望を連想させた。
「てこずらせやがって」
「ハハ、さすがエヴァパイロットってか?」
抵抗しようにも、もう身体が動かなかった。男に馬乗りされ、もう一人に手首を押さえつけられる。ボタンがとんで、下着がむき出しになっているブラウスをさらに破かれ、スカートを捲りあげられた。せめてもの抵抗で足を必死に閉じるくらいしか、できることはなかった。
そもそもどうしてこんなことになったのか。それを説明するにはおよそ二十分前に遡る。
二十分前、アスカは居酒屋でのアルバイトを終えて自宅へと向かって帰路を急いでいた。と、突然路地に引き擦り込まれた。いきなり後ろから羽交い絞めにされ、乳房を掴まれ、思い切りエルボーをかました。しかし、相手は二人。アスカは必死に暴れて逃亡を試みたが、あまりにも暴れるので幾度も殴られ、身体中痣だらけになった。アスカの凄まじい反撃で男達は倍以上の手傷を負っており、意地でもアスカを逃がさない構えだ。先日、レストランでアスカに水をかけられた男性客二人が待ち伏せしていたのだと、アスカが気づいたのはしばらくたってからだった。
馬乗りになった男の手が、アスカの乳房を掴んだ。男がズボンを脱ごうとしているのが見え、胸が悪くなる。足を精一杯バタつかせ、歯を食いしばってせめてもの抵抗をしてみるが、殆ど効果がない。こんな路地裏で名前も知らないゲスな男達に犯されるのかと思うと悔しくて仕方がない。こんな結末を迎えるために必死で勉強してきたのではない。必死でエヴァに乗って戦ってきたんじゃない。
手首を押さえつけている男が首筋を舐めようと顔を近づけてきて、アスカは精一杯顔を背けて身体を硬くした。と、男の頭がいきなり視界から消えた。暗がりに突然現われた人間が、容赦なく男の頭を蹴りつけて、ふっ飛ばしたのだ。男は二メートルほど吹っ飛び、そのまま気絶した。
「だれだ!」
アスカの上の男が、謎の人物に掴みかかろうと、立ち上がろうとして失敗した。
途中までズボンを下げていたのが災いし、つんのめるように転ぶ。
すかさずアスカは渾身の力を振り絞って男の股間を蹴り上げた。
「ぎゃ!」
悲鳴と同時に男はむき出しの股間を抱えて転げまわった。アスカの身体はふわりと持ち上げられ、あっという間に繁華街へと逃げおおせた。明るいところで見上げて、初めてそれがカヲルだと気づき、アスカは大きく安堵の息を吐いた。そしてそのまま、疲れから眠りの中へと落ちていった。
アスカが目覚めるとそこは知らない場所だった。知らない天井、知らないベッド。勢いよく起き上がろうとして、身体中の痛みを思い出す。
「あれ。もう起きたんだ」
何事もなかったかのように、カヲルが近づいてきた。アスカは毛布を引っ張りあげながら、横目でカヲルを見た。
「…ちょっと。ここアンタの家なの?」
「そうだよ?だって、キミ、寝ちゃったから。セカンドの家知らないし」
「…ま、仕方ないわね」
アスカはそのまま黙り込んだ。格好悪いところを見られたが、お礼は言うべきだ、とまずは考える。
「その…ありがとう。助けてくれて」
「別に。通りすがりにゴミを蹴っただけだよ」
「……」
コイツの天然なところに救われるなんて。アスカはほうっと息を吐き出した。そんなアスカの気持ちを知ってか知らずか、カヲルはダイニングの椅子に腰掛けたまま、風呂場を指差した。
「落ち着いたらシャワー使うといいよ」
言われて初めて、自分が泥だらけで、アザだらけなことに気づいた。髪の毛ももつれ、唇の端が切れている。
「使わせてもらうわ」
すぐにでもシャワーを浴びたい欲求に駆られて、アスカはベッドから飛び出た。
熱めに設定したシャワーを浴びて、石鹸で身体を洗うほどに、自分がどれだけ危険な状態だったのか気づいた。石鹸の泡が沁みる擦り傷がたくさんあった。髪の毛が汚れて絡み合ってなかなか取れない。キレイになるようゴシゴシ洗いたいのに、傷だらけで思うように洗えなかった。覚えている限り触られた場所を神経質に洗っている自分に気づき、アスカは悲しくなった。
エヴァで戦っているときとは違う痛みと恐怖が身体に刻まれている。どうしようもないほどの恐怖と悔しさに見舞われ、アスカは唇をかみ締めて自分自身を抱きしめた。
こんなの、私じゃない…。
アスカは意を決すると、濡れた身体のまま風呂場から出た。カヲルがキョトンとした表情で出迎える。
「?タオル、なかった?」
アスカはカヲルを頭のてっぺんからつま先まで、じっくりと検分した。整った顔立ちは同世代の男の中でも群を抜いて美しい。性格には問題ありだが、この際そこはどうでもよかった。
「フィフス、お願いがあるの」
「なんだい?」
「その、…わたしと、セックスしてほしいの」
このセリフには、流石のカヲルも驚きを禁じえなかった。
「ふーん?わからないな…セックスっていうのは男女の愛情の確認を含めた生殖作業だと認識していたんだけど…ボクたちは愛し合っているわけじゃないし」
「そんなの関係ないのよ。…わかっているでしょ?わたし、レイプされそうになったのよ?はじめてを、ぜんぜん知らない不細工な男としました、ってのだけは絶対イヤなの。アンタなら、まぁ、顔はイケてるからギリギリ及第点だわ」
「うーん…」
カヲルは天井を見上げ、顎に指をかけ、少し考えている様子だった。
「まぁ、生殖作業に興味がないわけじゃないからいいけど」
「アンタ…本当に性格に難アリね。ま、いいわ。早くしましょ」
アスカはベッドに潜り込んだ。アスカが風呂に入っている間に、シーツと毛布が変えられている。自分の家と違う洗剤の匂いを嗅ぎながら、全裸のまま待っていると、カヲルが近寄ってきた。
「ちょっと、電気消してよ。もう、ムードとかホントそういうセンスないのよね」
少し面食らったような顔でカヲルは部屋の照明を落とした。シャツを脱いで、ゆっくりとベッドに腰掛ける。
「…優しくしてよね」
「…仰せのままに」
カヲルがそっと毛布をはだけ、細くて白い指を伸ばしてアスカに触れた。アスカは目をぎゅっと瞑り、身体を硬くしている。ほんの少しだけ、震えているのがわかった。この脅えた小動物のような反応に、自分の中の何かが掻き立てられる気がしてカヲルは少なからず驚いた。この人間のような反応はどういうことなのか。使徒である自分にとって、生殖行為は人間の真似事にすぎないというのに。
つづく。
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テーマ : 二次創作小説(版権もの
ジャンル : アニメ・コミック