2010.09.09

光の波間(LAK版”天国の階段”)3:竜神貢

こんにちわ。
なかなかSS更新できないわたしの代わりに、今回も貢に続きを書いてもらったので、下記にたたんでおきますw


次あたりにWEB拍手にきたものに返信させていただきます!

いつもぽちぽち押していただき、本当にありがとうございます!!(^8^)




3


カヲルとは、記憶にあるだけずっと小さな頃から一緒だった。顔を見たいと思えばいつでも会いにいけた。
それが一年間もの長い間会えないのって、どんな気分なんだろう?
それはママに会いたくても会えないって気持ちと一緒なのかな…?
ママに会えない寂しい気持ちは確かにあるけど…カヲルに会えないって思うと、それよりもっともっと、胸が痛い…。

アスカはため息をついた。現実逃避したい気持ちが心を埋めつくす。

シャワーに入って、出かける準備しなきゃ…。

アスカはもぞもぞと身体を動かして、ベッドから掛け時計を見上げた。カヲルの出発を空港まで見送りに行くには、もう準備して出かけなければならない。
カヲルだけが留学してしまう。置いていかれることに納得はしていないが受け入れるしかない。
ベッドから身体を起こして、シャワーを浴びに部屋の外に出たところでレイに出くわした。

「…」

レイは無言のまま立っている。アスカの部屋は二階の一番奥で、レイの通り道にはならない筈なのだが、関わるとろくな事がないことをアスカは知っていた。アスカがレイを無視して歩き出したそのとき、レイがアスカの背後から体当たりしてきた。

「きゃあ!?」

突然突き飛ばされ、アスカは目の前の部屋に転がるように倒れこんだ。

「イタタ…ちょっと!なにすんのよ!」
「…」

半身起こしてそう言ったアスカの目の前でドアが閉められた。アスカが眉を顰める。

「なんなのよ…」
カチャリ

鍵穴が音を立てた。この部屋は物置として使っているので、外からでも鍵が掛けられるのだ。

「?アンタ、バカぁ?部屋の中からだって開けれるのよ?」

そう言って鍵を中から開けようとしてノブの上のつまみに手を伸ばして、アスカは愕然とした。つまみが工具で潰され、中からまわす事ができない状態になっていた。

「あなたは出られないわ」

ドアの向こう側からレイの声が冷たく響く。

「ちょっと!今日はアンタの遊びにつきあってらんないのよ!開けなさいよ!」
「さよなら」

ドンドンと拳でドアを叩くが、レイは聞く耳も持たず立ち去ったようでドアの外からは何も聞こえない。アスカは唇を噛み締めた。

レイ…。あの子、今日が何の日かわかってやってるんだわ…。

何が何でも、見送りには行きたい。アスカはキョロキョロと部屋の中を見回した。窓は明かり取り用でとてもじゃないが出られる大きさではない。物置といっても、この部屋の中は普段は着ない服やガラクタが置かれているだけで、ドアをこじ開けられるようなものもない。
中から開けられないなら外から開けてもらうしかない。だが、頼みの綱の父は今日は学会で留守にしている筈だった。ユイはいたとしてもアスカの叫び声など無視するに違いなかった。

落ち着いて、考えるのよ、アスカ…。

ポーン…ポーン…

柱時計が無情にも、アスカに時間がないことを告げた。
チク、タク、という時計の秒針の音が異様に大きく聞こえ、追い詰められていくが成す術がない。
会えないと思えば思うほど、自分がどれだけカヲルを好きだったのか、今更ながら思い知らされた。
これから一年、いやひょっとするともっと長い間。カヲルに会えない。触れられないのだ。
絶望に目の前が真っ暗になった

ガチャリ

突然ドアのブが回された。ひょこ、とドアから顔を覗かせたのはシンジだった。

「あれ。アスカ?」
「あ、ありがと!」

アスカはドアから飛び出した。驚くシンジを振り返りもせず、財布だけ持って家を飛び出した。
空港まで約一時間。カヲルの搭乗に間に合うのか。
正直、間に合わないと思いつつもアスカは道を急いだ。




「カヲル坊ちゃん。もう行かなければ」
「うん…でもアスカは絶対くると思うんだ」

いつまでも搭乗ゲートに入らず、空港の出入口方向を見つめているカヲルをキースは促した。搭乗を促すアナウンスも流れ、カヲルをゲートへと追い立てる。

「さぁ、坊ちゃん」
「…うん」

カヲルは仕方なく目を逸らし、ゲートを振り返った。もうカヲルとキース以外は全員搭乗しているの違いない。ゲートは既に閑散としており、ゲート内では微笑を絶やさない女性がカヲルとキースの動向を見守っている。
カヲルが一歩足を踏み出したそのときだった。

「フィフス!」

聞きなれた声が空港内全体に響いたかのような大きな声。カヲルは微笑を浮かべて振り返った。

「アスカ」

アスカは髪も乱れていて、服すら外出用には見えなかった。はぁはぁと肩で息をしていて、いつもの自信と余裕に満ち溢れたアスカからは程遠かったが、カヲルはそんなアスカを愛らしく感じた。

「おそく、なって…ごめん」
「来ると思ってたよ」
「わたし…」

アスカは言葉に詰まった。この期に及んで好きと言えない自分に腹が立つ。カヲルは何もかも見通しているかのように、少し笑って見せた。

「これをあげる」

カヲルはアスカの首にそっとペンダントをかけた。自分の首にかけているペンダントに指をかけてアスカに見せた。

「これは二つでひとつなんだ。ボクとアスカみたいにね?」
「…ふ、ふーん」
「一年後。ボクたちが再会するまで肌身離さず持ってるから、寂しくなったらこれを見てボクを思い出して?」
「な、なによ。こんなものが、アンタの代わりになるわけないじゃない?…ま、どうしてもっていうならもらってあげるけど」

アスカの台詞にカヲルは苦笑いをして見せた。さりげなく、キースがカヲルの肩に手を置く。カヲルは頷いた。

「どうしても、だよ。…さ、もう行かなきゃ」
「あ…」
「じゃあアスカ。一年後に」
「……うん。絶対行くわ」

カヲルは微笑んで見せると、搭乗ゲートへと消えていった。アスカをひとり残したまま…。




カヲルがいなくなった日々は、世界の色が全て抜け落ちてしまったかのようだ。何があっても楽しくないし、相変わらずのレイやユイからのイジメも、どうでもいいと思うようになっていた。
イジメは飽きもせず毎日続いていた。
この日もいいがかりをつけられて言い争いが始まり、アスカはうんざりしていた。

「人生、あなたが思っているように甘くなんかないのよ?」

ユイが興奮して手を翻したそのとき、ユイの手が飾り鉢にあたって鉢が棚から床に落ちた。見事、というほど粉々に鉢が割れ、粉砕音が響き渡る。

「そ、それ、パパの…!」

アスカは息を呑んだ。ユイが割ってしまった鉢は、ゲンドウが大事にしていた鉢なのだ。そのことはユイも知っていて、顔面蒼白となっている。そこへ粉砕音を聞きつけてゲンドウ、シンジ、レイまでもが集まってきた。

「これはっ…」

ゲンドウが言葉を失っているのを見てユイがすかさず囁いた。

「あなた…申し訳ありません。実はアスカが今…でもアスカには悪気はないんです」
「なっ…パパ!信じないで!私じゃないわ」

アスカは猛反論した。

「わたし、パパの大事なものを壊したりしない!」
「アスカ。正直に言えばお父さんだって許してくれるわ」

ゲンドウがわなわなと震えながら、アスカを見つめた。アスカは腸が煮えくり返る思いを殺しながら、冷静に反論しようとしたその時。

「オジサン、ごめん。それボクが割ったんだ」
「シ、シンジ?」

アスカは声の主を振り返った。実はシンジは階段の中ほどから、鉢が割れる前から階下の騒ぎを眺めていたのだが、たまらず口を挟んだのだ。

「ごめんなさい。大事なものだったんでしょ」
「シンジ…今日は反省のために夕飯ヌキだ」

ゲンドウはそれだけ言うと、踵を返して部屋にとって返した。
シンジは黙って部屋に引き返して行き、レイとユイも立ち去ってアスカはひとり取り残された。成り行き上一人で破片の片づけをしながら、アスカはシンジの行動を考えていた。
シンジはレイともユイとも折り合いが悪くて、いつも存在しないかのように扱われていた。本人も関わりたくないのかいつも音楽を聴いていて、話しかけるスキを与えない感じだった。
一体何を考えて、罪を被ったのか…。
アスカは首を傾げつつ、破片の片付けに専念した。





22時。
アスカは台所で残りごはんでおにぎりを握っていた。具材もないので塩握りだが、普段料理なんてしたことのないアスカには三角に握るという高度テクニックがなく、いびつな丸い握り飯が二個できただけだった。
皿にのせたおにぎりを持って階段を上がると、シンジの部屋をノックした。

沈黙

無音に耐えかねて再度ノックするがやはり返答がない。思い切ってドアを開けると、シンジはベッドの上で仰向けに寝転がり、音楽を聴きながら天井を眺めていた。アスカは気遣うのもバカらしくなり、ズカズカと部屋に入り込むとシンジの鼻先におにぎりを突きつけた。

「ハイ」
「…」
「今日、なんか庇ってもらったいたいになっちゃったから」
「別に」
「…ヘンなヤツ。なに考えてんのか知らないけど、借りを作るのはイヤなの。食べなさいよね!」


それだけ言うと、アスカは部屋から出た。シンジの反応の鈍さにまた頭を傾げながらも自分の部屋に戻った。

ま、これで借りはナシだし、どうでもいいか。

シンジは暫くの間、アスカが出て行った部屋のドアを見つめていた。


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